あたたかな日差しの中に力強さを感じるようになってきた。
夏がくる。
それは私にとってまたひとつ年を重ねることを意味する。

ふと、母の言葉を思い出した。
「一緒に過ごす時間を重ねていくことで愛情って深くなるんじゃない？」
これは初めての子育ての中で、もっともっと我が子を愛さなくてはというプレッシャーを感じていた私にかけてくれた言葉だ。
その言葉通り、娘への愛は年々深まり続けている。
そしてまた、私は私の身体を愛おしむことができるようになってきている。
これはきっと、何十年と共に過ごしてきたから。
この先も時間を積み重ね、私の心と身体の結びつきは強くなってゆくのだろう。

愛おしいのならその愛おしさを何かの形で伝えなくては。
泡立てネットでつくったたっぷりの泡で洗顔したり、化粧水を何度も何度もていねいにしみこませたり、惜しみなく全身にボディークリームをぬったり。また最近はシートマスクやアイクリーム、美顔器などといったプラスαのアイテムも日常的に使うようになった。私なりの方法でこれからも私に愛を伝え続けてゆくつもりだ。

先日、ドラマの撮了祝いに花束をいただいた。
それはおくるみに包まれた赤ん坊をそっと抱きしめるほどの大きさで、赤いガーベラ、赤いカーネーション、赤いグロリオサなど、赤を基調とした艶やかな花束だった。

自宅に戻りすぐに水切りをした。
大きめのボウルにたっぷりと水をため、その中で茎の長さを整える。剪定鋏で切った瞬間、私の身体にも清らかな水が注ぎこまれるようですがすがしい。
この赤い花々が放つ艶やかな空気を家の隅々にまでいきわたらせたいと思い、一輪挿しや小瓶などを引っ張り出してみた。
光差し込むリビングに、キッチンに、寝室に。情熱的な小さな命がちりばめられた。

赤い花が視界に入る。

するとその瞬間、下がりがちな目尻のしわがくっと後ろに引っ張られるような、吸い込んだ空気が少しクリアになるような、そんな気がした。
いいねボタンをポチッとしたくなる感じ。押したことはないのだけれど。

この感覚。メイクをしたときに似ている。
マスカラでコーティングされた上向きのまつげ、色づいたまぶた、あかねさす頬など、他人が気にも留めないほどの小さな変化に喜ぶ瞬間に。

私がメイクを学んだのは中学生の頃だ。
メイクさんからファンデーションの塗り方、スポンジの使い方、お粉のはたき方など基本的なことを教えていただいた。しかし当時の私は数多き吹き出物に悩む思春期真っただ中。メイクはコンプレックスを隠すために必要なものとなった。しなくてはならないもの。
それがいつしか、したいものに変わった。
今でももちろんコンプレックスはある。しかしそこに焦点を当てるより、自分の好きなところや好きになりたいところに目を向け楽しんでみると、いつの間にかコンプレックスが気にならなくなるというメイクの魔法を知った。
たとえば目の下のクマが気になるなら少し頬を色づかせてみるとか、顔のシャープさを求めるときには眉毛をいつもより濃く仕上げてみるとか。

錯覚？いや、これは魔法。
メイクというとても自由な世界でのみ使うことのできる素敵な魔法。

今年の夏はどんな魔法を使おうか、想像するだけでワクワクする。
楽しんで生きている私のことを、私はもっともっと愛していきたい。

今回は「赤」をテーマにした短歌をどうぞ。

ときに赤 伝えそびれた 言の葉も
色づくように くちびるそめて

それではまた、次の季節にお会いしましょう。