コラム

星野真里の”いろどり日記”
「季節」

23.03.02いろどり日記

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春が好き。
ダウンコートを脱ぎ、重ね着をやめて少しずつ軽くなるのはきっと身体だけではない。
桜をはじめとしたさまざまな春の花をながめていると、ふっと自分の人生と重ね合わせたくなる。私は自分の花を咲かせてきたのだろうか。この先どんな花を咲かせることができるのだろうか。そもそもつぼみを抱えているのだろうか。
思い描いていた未来とは違う。ならば現実の色味を確かめてみようと広い世界に目を向けると、そこは春。
ひとつ、またひとつと新しい花が開く様は私にもまだチャンスがあることを伝え、枯れてなお美しい姿は咲いてそしてそれからの未来を優しく教えてくれる。
こんなにも心がやわらかくなる季節。だから春が好き。
photo by mari hoshino
花咲く季節に負けず劣らず好きなのが青葉の季節だ。
初夏の太陽の光をはじき返すほどつややかなその裸体には生命力がみなぎっている。花だけじゃない!という木々の叫びのような青々しさはなんとも頼もしい。
そこから始まる暑さは年々厳しくなるけれど、暑ければ暑いほどそのピークを越えた時に得る達成感は夏特有のもの。夕暮れのぬるい風が頬に、腕に、足首に触れるとき、私は私の輪郭を感じて嬉しくなる。自分に一番甘くなれる季節なのかもしれない。

そしてやってくる実りの秋。熟成された大地の甘みはやはり格別。堪能するこの季節においては時間の流れもゆるやかになる。
色づく世界の美しさに私はその後の未来を想像する。とどまることなく時間は流れてゆくからこそ、どの瞬間もかけがえのないものとして捉えることができるのだ。今を感じる。それでいい。遠くへ行ってしまう恋人の手を握りしめるように私は秋の中にいる。
photo by mari hoshino
冬はどうだろう。
たとえば一日の終わり。布団にくるまれた足先の温かさと、少しずつ冷たくなる頬。そうだ、このコントラストが好き。冷え切った身体が湯船の中でとけてゆく時間や、温まりすぎた部屋の窓を開けて冷たい風が入ってくる瞬間が。
乾燥した肌に化粧水がしみこんでいく感覚も忘れてはならない冬の幸せ。私という一本の木への丁寧な水やりで小さなつぼみは膨らんでゆくのだろう。

そういえば、私が好きな着物の世界では洋服よりも敏感に季節を感じなくてはいけない。先取りというルールのもと絵柄や素材を選ぶ。その根底にあるのは、見ている人を楽しませるという心遣いだと母から教えてもらった。自分よりも人様のために、迷惑をかけないように。とても日本的なこの精神。なんて愛おしいのだろう。

新しい季節がまたやってきた。
日本に生まれ育ち、もはや当たり前すぎる季節の移り変わりに、きっと私は救われている。

それでは最後に春の短歌を。

新しい手帳に春の陽のさして去年と同じ花は咲かない

皆様にとって良きスタートを切ることができますように。
星野真里

星野真里

女優・タレント。1981年7月27日生まれ,埼玉県出身。O型。1995年にNHKドラマ『春よ、来い』でデビュー。同年にTBS系ドラマ『3年B組金八先生』に坂本乙女役で出演し、認知度を高めた。

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